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個人的にグッときたホラー映画(べつの意味でグッときたホラー映画も)なんかや、 小説のレビューなどをポツポツと…
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    El Rey de la montana



(2007)スペイン
出演…レオナルド・スバラグリア
マリア・ヴァルヴェルデ
トーマス・リオーダン
監督…ゴンサロ・ロペス・ギャロ
★★★


〔ストーリー〕
 山間部をドライブ中のキムは、途中で立ち寄ったスタンドで万引きする若い女性を発見。彼女とはトイレで一緒になり、そのまま誘惑されて関係を持ってしまう… が、彼女に財布をすられてしまう! パニックに陥るキムに、スタンドの店員は、「会計はすでに済ませてある」とのこと。仕方なくふたたび車を走らせて、道に迷ってとある道路を選んだのが、彼の恐怖体験のはじまりだった…!!


 最近のスペイン・ホラーは、ほんとうに良質なものが多いですよね。
こちらは、英題「King of the Hill」、上記のあらすじだけではわかりにくいと思いますので、つけ足させていただきます。主人公はなんと、「正体不明の狙撃手」に狙われてしまうのでーす… いわゆる、顔のない殺人鬼にねらわれちゃうパターンの、手に汗握るスリラー映画! この手の映画って、けっこうたくさんあるようなんですが、わたしははじめてちゃんと観た気がします。そして、おもしろかったです。

 監督さんはスペインで活躍している方らしく、この作品で世界的にも注目を浴びそうな予感です。(…アメリカ進出の話もだいぶ以前からあるようなんですが、そちらのほうはなかなか決まらないみたいですね)。
 …ええと、とくにこれといって書くこともない作品なんですが、まずはストーリーの要約から。

 主人公のキムを演じるのは、色男 レオナルド・スバラグリア。わたしはこういう系統の顔に非常に弱いんですが、なんでも彼、アルゼンチンで絶大な人気を誇る役者さんなんだそうです。ちなみに、「逃走のレクイエム」(2000)「Intacto」「10億分の1の男」2001)が有名です。

 そして、ヒロインのベア(万引き美女)を演じるのは、マリア・ヴァルヴェルデ。パッと見童顔なんですけど、化粧映えする美人といいますか、見ようによってはかなり変身しちゃうタイプです。

 この美男美女カップル(…カップルではないんですけど)が、人気のない田舎道で、いきなり正体不明の狙撃手に襲われちゃうと! それで、森に逃げちゃうと!! 途中で保安官やマヌケ警官となんやかんやと!! どーやって脱出するんだと!!…まあ、そんな感じのお話です。

 前半は物語がどこにむかうかもわからず、スリリングだったり、ハラハラしたり、キムがマヌケで愛らしく見えてしまったりと、ごくふつうのスリラーとして進むんですが、後半、犯人の正体がわかってからは、“最近の傾向と対策” が生きてくるようなお話です。そして、不・愉・快です!! あんまりにも不愉快なんで、これからこういう傾向のある作品は、「ザ・不愉快」と名づけようかと思います。

 リアリティ重視の恐怖って、どうしてもこういう感じの作品になってしまうのかなーと、ちょいと食傷気味。最近の流行なんですかね? それとも、(ありがたくはない話ではありますが)、時代を反映しちゃっているのでしょうか…? ですが、作品のテンション自体はよく、結末近くになると、やはり緊張でギリギリしてしまいます。キムの悲壮感がこれでもかと画面に映しだされる一方、犯人側の映像はシューティングゲームのようなふざけたカットと、どこまでも 「リアルでない現実」 をリアルに描きだしています。…なんていったら、褒めすぎですかね?

 ですから、こういう作品が多い風潮のなかで、こうした結末を選んだことは非常に非常に、評価できると思います。うむ、良作です!












車から降りたとたん、
足を撃たれた!!









ベアとふたりで森を
さまようことに…









なかなか助けが
きません…










犯人の正体は…??









追いつめられた
キムの運命は…?!







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    Ghost in the Machine



(1993)アメリカ
出演…カレン・アレン
クリス・マルケイ
テッド・マルクス
監督…レイチェル・タラレイ
★★☆



〔ストーリー〕
 住所録を入手しては、そこに記載された家族を惨殺していく狂気の殺人鬼カール。ある日、彼が勤める家電製品店に、そうとは知らないテリーとジョシュの母子がやってくる。新しい情報処理ソフトに夢中になって、アドレス帳を置き忘れてしまうテリー。それを手に入れたのは…
 そして、内なる狂気に突き動かされるように、ある晩カールは車を暴走、墓地に突っこんで意識不明の重態となり病院へ運ばれるのだが…

 
 90年代というと、やたらとバーチャルものが流行って、いかがわしいCG処理が映画界に多用されていた時期でもありました。この作品は、そんななかでもお気に入りのひとつです。

 邦題は「ヴァイラス/インターネットの殺人鬼」。…あ、同タイトルの「Virus」「ヴァイラス」1999)とは似ても似つかない内容です。(← こちらは、硬派でマジメで、ちょっと地味~なSFサバイバル・ホラーです)。今回ご紹介します作品は、「The Lawnmower Man」「バーチャル・ウォーズ」1992)とけっこう雰囲気が似てるかもです。製作年も近いですしね。トンデモ設定がまた、非常によく似ています。トンデモ・ストーリーもまた、90年代ならではの暴走っぷりで、なかなかイカしているんですよ。

 ヒロインのシングルマザー、テリーを演じるのは、「インディ・ジョーンズ」シリーズでおなじみのカレン・アレン。彼女がアドレス帳を置き忘れてしまったことから、それが無差別殺人鬼の手にわたってしまい、彼に狙われるようになってしまう… というよくあるストーリーなのですが、そこに仮想現実を追加しまして、当時は最先端だったと思われるCG映像がてんこもりとなっています。とあるフツーの殺人鬼が、実体を持たない “最強のモンスター” に変身しちゃう理屈がまた、ありえなくてトンデモすぎるのです。

 殺人鬼カール(テッド・マルクス)は、ある晩車を暴走、ゲラゲラ笑いながらそのまま墓地に突っこんで、意識不明の重態となっちまいます。病院に運ばれて、そこでMRI検査を受けている最中に、いきなり落雷。と同時に、彼は臨終してしまいます… ですが、落雷時の異常な電流過多によって、MRIがデータ化した彼の脳の情報(…なんのこっちゃい?)をネットに飛ばしてしまい(…だから、な、なんのこっちゃい?!)、彼の邪悪な意識だけが電子社会に生き残って、ヴァーチャル界の悪霊と化してしまうのです… うーむ、あなおそろしや、90年代ムービー!!

 フツーに考えてみても、MRIが人間の意識までデータ化するなんてありえないんですが、そこはそこ、うさん臭いホラーに徹しているところが潔いです。この悪霊ちゃん、副題では「インターネットの殺人鬼」なんてついてますが、なぜか電線や電気コードまでも自由に行き来して、罪のない人間をばかばか殺していきます。ついでに、コンピューター機器が組みこまれていないはずの電化製品(…人がスイッチで作動させるやつね)まで、なぜだか自在に稼動できちゃうし! なんでもありじゃんか~、こんな最強、どうやって退治するの? と思っていたら、ちゃんとできちゃうんですね。だって、トンデモ映画ですもん

 カールの異常性もしっかり描かれていて、冒頭のある一家を惨殺するエピソードもおもしろいです。悪霊と化してからのカールの第一犠牲者のシーンがまた、気合入っています。残念なのは、この残酷度がすこしずつあがっていくと、「ファイナル・デスティネーション」シリーズみたいにさらに盛りあがったんですけどねー。

 いま観てみると、バカバカしい娯楽作として片づけられそうですが、当時の電子社会にたいする不安や警戒が露骨に表現されていて、それが現在では、「ネットを悪用する側の人間」、「そうした人間に操られてしまう社会」… といったことに恐怖のテーマが移行してきたんだな、と、よくわかります。

 あと、監督のレイチェル・タラレイは、「Freddy's Dead: The Final Nightmare」「エルム街の悪夢/ザ・ファイナルナイトメア」1991)を撮った方ですね。最近はもっぱら、テレビドラマの監督というイメージがありますが。












殺人鬼カール(テッド・マルケス)。
殺害方法もバラエティに富んでます。
ジョークも通じるヤツですよ!








ひとり、恐怖の真相を
突き止めてしまうブラム
(クリス・マルケイ)!








ついに実体化した
カールの怨霊は…!!








身体を持たない
モンスター相手に、
勝算はあるのでしょうか…?!
 






    Amusement



(2008)アメリカ
出演…キャサリン・ウィニック
ジェシカ・ルーカス
ローラ・ブラッケンリッジ
監督…ジョン・シンプソン
★★☆


〔ストーリー〕
 3話のオムニバス形式。シェルビー、タビサ、リサの3人の若い女性たちに起こった、悪夢のような恐怖体験とその結末とは…? 唯一助かったタビサは、FBI捜査官と心理学者から質問を受けながら、遠い過去の出来事を思い出そうとするのだが…


 タイトルから、よくある遊園地を舞台にしたホラーを想像していたのですが、オムニバスだったのですね。そして、あまり期待せずに観たのですが、これがけっこうおもしろかったです。監督さんを調べてみましたら、「Freeze Frame」「フリーズ・フ
レーム」
2004)
という作品が話題になっていました。こちらはスリラーでして、東京国際ファンタスティックでも注目を集めたようです。

 オムニバスといいましても、一話ごとにきっちり完結する形式ではなく、じつは彼女たちは幼なじみ、少女時代にある男の子と仲よしだったのですが… というお話。オムニバスに関連性は大事ですよね。さあ、3人の美女たちにいったいなにが起こったんでしょう? まずは一話目の、シェルビーの不運から。

 ボーイフレンド(キーア・オドネル)と夜間のドライブ中のシェルビー(ローラ・ブラッケンリッジ)は、途中で立ちよったスタンドで奇妙な光景を発見。隣に止まっていたトラックの荷台の小さな窓から、怯えた女性の顔を見てしまうのです。あの女性は? なんであんなところにいるの…? 不審に思いながらも、ふたたび車は出発。トラックはちょうど、彼女たちの前方を走っています。と、うしろの窓になにか書かれた紙が見えます。「あれを見て! だれかがあそこにいるの!!」と、彼女が叫んだとき、車は強い衝撃を受けて…

 場所は変わって、今度のヒロインはタビサ(キャサリン・ウィニック)。幼い兄弟たちの面倒を見るために、知人の家にやってきたタビサ。その家の一室は、大小さまざまなピエロの人形がたくさん飾られていた。今夜は子供たちと自分だけ… 無気味なピエロ人形に囲まれて、嫌悪感を隠せないタビサ。だれかに見られているようで、なんとなく落ち着かない。そのとき、雨のなかを訪問者があらわれるのだが…

 3人目には、リサ(ジェシカ・ルーカス)の物語。バーで知りあった青年・ダン(レイド・スコット)と仲よくなったリサ。ルームメイトが外出中なのをいいことに、彼を部屋に招き入れる。しかし、朝になってもルームメイトはもどっていなかった。リサとダンは、消えた友人を探すことにするのだが… 

 こういってはなんですが、あんまりリアリティ重視の姿勢にいると、なかなか楽しめない作品かもしれません。ですが、雰囲気はいいです。一話目のシェルビーの物語は、無難なオチつきホラーでして、(けしてつまらなくはないんですが)、「全体として、こんな感じのストーリーがつづくのかな?」 と、思っていたら、すこしずつ裏切られていくのがまたよかったです。

 ピエロの人形、廃墟みたいな古い屋敷、覗き箱、からくり仕掛けのオルゴール、「Silent Hill」「サイレントヒル」2006)みたいなデザインのクリーチャー… などといった、ホラー心をくすぐるアイテムが多数登場。ノスタルジックでファンタジックなムードのなかに、不条理さがときどき浸出してくる演出です。現実離れした仕掛けやからくりもよいですね。ホラー好きですもん、凝った仕掛けやからくりには弱いです! …といっても、「ソウ」のような合理的な仕掛けではないんですけどね。思いっきりありえなーい(笑)世界なんですけどね…

 殺人鬼が弱っちくてマヌケすぎるのがちょっと残念なんですけど、ありえない不可思議ワールドに浸れて楽しかったです。合理ホラーももちろん大事ですけど、こういう雰囲気重視の作品も、もっと作られてもいいかなあ、と。













みなさんは、どなたがお好み?
タビサ役のキャサリン・ウィニック。







リサ役のジェシカ・ルーカス。
「Cloverfield」「クローバーフィールド」2008)
にも出演してますね。










シェルビー役の
ローラ・ブラッケンリッジ。










トラックの荷台に
女性の顔が!









背後に迫って
きてますよ~!!








このオルゴールがまた、
カッチョイイ仕掛けつき
なんです。









ひいぃぃぃ
うしろ!!







    Die Welle



(2008)ドイツ
出演…ユルゲン・ヴォーゲル
ジェニファー・ウルリヒ
マックス・リーメルト
監督…デニス・ガンゼル
★★★


〔ストーリー〕
 高校教師のライナーは、独裁政治をテーマにした歴史の授業を受け持つ。しかし、現代の子供たちはさほどそのテーマに興味を示さず、いまという時代にそんな極端なことは存在しえないと熱意がない。ライナーは、「それでは実践してみないか?」と、“このクラスの期間中、ここにいるだれかを絶対的な指導者にする” ことを提案。多数決で決まったその指導者とは、ライナー自身だった…


 英語タイトルは「The Wave」、じつはこの作品は、“The Third Wave” というアメリカの高校でじっさいに行われた実験をもとにしています。実話の、人間心理に関する実験を題材にした映画というと、「Das Experiment」「es/エス」2001)が思い出されるんですが、こんな話があったなんて、わたしもはじめて知りました。ちなみに、この事件は当時授業を指導した教師本人の手により本が出版され、世界中でそれをもとにした演劇やドラマなどが作成されているそうです。

 “The Thrid Wave” とは、第三帝国にちなんでつけた、生徒たちのプロジェクト名。1967年のニューヨーク州パロアルトのとある高校で、ひとりの生徒が、「ナチの躍進は、現代社会では起こるはずがない」と発言します。それを聞いた教師は、「ほんとうに現代のアメリカには専制体制は成立しないだろうか?」 という疑問をもとに、集団意識操作の実験をスタート。生徒たちはそれぞれ役割を担い、行動を制限され、服装も一律化するなどして(制服ということですね)、5日間という期間を決めて実践行動を行いました。

 すると、彼らはあっさり感化されてしまい、“The Thrid Wave” に熱狂する生徒たちが多数続出。事態をおそれた教師は、すぐさま実験を中止することになりました。こうしたじっさいに起きた事件をもとに、ドイツの高校に舞台を移しかえたのが、デニス・ガンゼル監督の本作です。

 映画のなかでは、教師のライナー(ユルゲン・ヴォーゲル)が「指導者」役を担います。彼は服装を白いシャツに決めたり、全員で挨拶することにしたり、彼らの名称(プロジェクト名)を決めたりして、しだいに生徒たちも彼のカリスマにつりこまれていきます。(制服、それに授業のまえの挨拶なんて、日本人のわたしたちからすると、まったく当たりまえのことのように思えていたんですけど。。。じつは、非常にきわどいことだったんですね…)

 女生徒のひとり・カロ(ジェニファー・ウルリヒ)は、ライナーの提案にどうしても賛同できず、挑戦的な赤い服を着て登校してしまいます(こういう女の子、いいですよね!)。でも、同級生たちは彼女が思っていた以上に、ライナーの発言を真剣に受けとめているのでした…
 
 最初は遊び半分に思えたプロジェクト、しだいに結束が強くなりだして、仲間意識が芽生えていきます。それは集団への帰属、ひいては自己の考えを見失うこと。仲間ではないと見なした相手にたいしては、敵対心が生まれたりもするのです。

 学生時代から集団行動や〈〇〇時間テレビ〉なんかに、どーしても違和感をぬぐえなかったわたしには、その理由がよくわかって、とてもとても納得できました。たとえば、おなじ色の服を着て一緒に行動したがる少年グループなんかや、いじめ問題なども、ファシズムのごく小さな規模なのだと理解できるのです。
 「エス」とくらべると、衝撃度はやや落ちるかもしれませんが、非常にクレバーで、もろく、危険な人間心理を丁寧に描いた佳作。オススメです。 









ライナー
(ユルゲン・ヴォーゲン)
は独裁体制が成立する
かどうか、実験を行うこと
を生徒に提案します。









カロ役のジェニファー・
ウルリヒ。





ひとり当惑するカロ、
BFのマルコや友人たち
は、どんどん熱中!




オタク少年のティム
(フレデリック・ラウ)は、
しだいに“The Wave”に
依存するようになって…
背後に見えるのが、彼らの
シンボル・マークです。







いつの間にか、信者が
こんなに!!
ライナーが最後に下した
決断とは…??







 
     『カーリーの歌』



    原題 『Song of Kali』
    (1985)
    ダン・シモンズ:著
    柿沼瑛子:訳
    ハヤカワ文庫


〔ストーリー〕
 詩人のルーザックは、編集者の友人から死んだはずのインドの大詩人・ダースがじつは生きているという情報を聞きつける。しかも、彼は新作を書きあげているというのだ。ルーザックはその真偽をたしかめるべく、妻と幼い娘をつれてカルカッタにむかう。しかし、西洋の理知的な詩人・ルーザックの目から見たカルカッタは、腐敗と臭気、暴力と混乱に満ちたおそるべき魔都だった…


 いまの装丁はこんな感じになっているんですね。
ダン・シモンズの長編デビュー作、デビュー作にして〈世界幻想大賞〉を受賞したという、快挙な一作です。

 この作品はグロテスク描写がすばらしく緻密で(!)、無気味なカルト集団の暗躍エピソードが寒気がするほどリアルでおもしろく、わたしなんか、読みかえすたびにおっかない悪夢を必ず見てしまうという代物なのですが… 映画化の話はこのさきも望めそうにありません。

 なぜかというと… 作者自身はまったくそのつもりはないのですが、差別的な描写が含まれていると誤解されるおそれがあるからです。
 そういえば、ラヴクラフトも、本人にはまったくその自覚がなくても、作中で有色人種やインディアンを恐怖の対象に見ていました。これは、ラブクラフト自身が彼らに “理由のない恐怖” を抱いていたからなのですが… (それが人種差別なんだよ、とだれかに指摘されれば、本人もびっくりしたことでしょう。だって、一方でヒトラーを大嫌悪していましたもんね!)

 シモンズの場合は無知からきている恐怖ではなくて、作品としてインドの大都市・カルカッタのエキゾティックなイメージを利用しただけ。その証拠に、カルカッタの混沌とした、どぎつくて邪悪な面をこれでもかと描いておきながらも、その筆はどこか醒めた様子です。おそらく、「西洋人の理解や知識がまったく通用しない場所」=「存在することすら呪わしい場所」の象徴として、カルカッタを使ったのでしょう。

 物語は、詩人のルーザックが死亡したはずの今世紀最大の大詩人・ダースの生存説を知り、妻のアムリタとまだ数ヶ月の愛娘・ヴィクトリアとともに、カルカッタに旅立つところからはじまります。そこでダースを見つけだし、彼の新作を手に入れるはずでしたが… 暗黒の邪神・カーリーを崇拝するカルト集団の陰謀に巻きこまれてしまいます。ダースはほんとうに生きているのか? カルト集団の狙いとは?? そして、そこにはひいぃぃぃ~!! な、おそろしい邪悪儀式と秘密もあったのです…

 「暴力こそが力」という提示にたいし、「それでも、わたしはなにもしない」というメッセージ性が非常に力強く、印象的です。ですが、時間を経ても色褪せないその魅力とは、やはりルーザックが迷いこむ異国の悪夢のような鮮烈体験でしょうね。ここのエピソード、ほんっとに夢に出てくるほどおぞましいです。(シモンズはまどろっこしい書き方をするきらいがありますが、この処女作にいたっては、わかりやすくて、単純で、ただひとこと、おもしろこわい! といいますか、エグイ!!
 
 「ハイペリオン」シリーズしか読んだことがないという人も、これを機会にホラーに挑戦してみてはいかがでしょう? なお、個人的には、少年ホラーの 『サマー・オブ・ナイト』 がいちばん好きなんですけど、〈ブラム・ストーカー賞〉を受賞した堂々たる大長編、『殺戮のチェス・ゲーム』 もオススメです。ちなみにこの作品は、傑作吸血鬼アンソロジー 『血も心も』 のオープニングを飾る、『死は快楽』をもとに書かれたもの。こちらも必読の仕上がりとなっています。






 
   Dracula cerca sangue 
         
di vergine... 
         e mori di sete!!!

(1974)アメリカ/イタリア/フランス…
出演…ウド・キアー
アルノ・ジョエギング
ジョー・ダレサンドロ
監督…ポール・モリセイ
監修…アンディ・ウォーホル
★★★

〔ストーリー〕
 ルーマニア貴族の末裔であるドラキュラ伯爵は、処女の生き血がなければ徐々に年老いて衰退してしまう身。しかし、近ごろでは生娘がめずらしくなり、一族の滅亡を嘆くドラキュラに、執事のアントンは信仰の厚いイタリアにむかってみてはどうかと勧める。最後の肉親である妹を永遠の眠りにつかせたあと、ドラキュラとアントンはイタリアの片田舎へと旅立つことにするのだが…


 アンディ・ウォーホル&ウド・キアーの変態&ブラック・ユーモア映画(…いえ、ギャグ?)の「処女の生き血」です。英題では「Blood for Dracula」になっていますね。原題がこんなに長かったとは、わたしも知りませんでした…

 ウォーホルとモリセイ、それにウド・キアー、ジョー・ダレサンドロとくると、「Flesh for Frankenstin」「悪魔のはらわた」1973)もあるんですけど… じつは、まだ未見です。ですが、この作品も悪趣味映像満載だそうで、ついでに3Dになっていまして(公開当時、すごく話題になりましたねー)、やはりギャグ? てんこもりの内容だそうで… いまから非常に楽しみにしています。まずは、若き日のキアーのうつくしさとカワイソさが十二分に堪能できる、本作から。

 この作品、わたしはひそかにキアー最高傑作ではないかと思うのですが、一般的なドラキュラ映画ファンからはあまり好かれていません… というのも、これまでのクールで上品なドラキュラ・イメージを180度くつがえしてしまうような、とことん惨めで哀れな(!)伯爵様になっているからです。

 オープニングは、心和ませるピアノ曲とともに、キアーが白髪を黒く塗ったり、化粧を施したりして老いを隠そうとするシーンからはじまります。それにしても、若いころのキアーって、ほんとにふつくしい…!! うっとり見とれてしまいます。キアー演じる伯爵様は、どういうわけか処女の生き血でなければ受けつけません。しかし、近ごろでは性の解放が進み、処女の存在自体がめずらしくなってしまいました。

 「われらはもはや、滅びるしかない運命なのか…」と、気弱になってしまう伯爵様。(そんなこといわずに、がんばってくださいよー!)

 と、執事のアントン(アルノ・ジョエギング)がナイスな提案をします。「敬虔なカトリック信者の多い、イタリアにいってみてはどうでしょう?」 アントン、ナイス! さっそく伯爵様は “マイ棺桶” を馬車に積んで、イタリアへとパカパカ遠征にむかうのですが… 

 さて、察しのいいみなさんには、もうこのあとの展開は読めちゃいますよね(笑)。
伯爵様は “先妻を亡くし、新しい嫁候補を探しにきた。ただし、処女限定!” という設定で、獲物探しをします。すると、彼の莫大な遺産につられた没落貴族のオバチャンが、「うちにいい娘がいるのよ~!!」と、4人姉妹を売りこんできます。

 「あなたはホントに処女ですか?」「ええ、わたしは処女ですわ、もちろん!」
こんなやりとりのすえ、結局はだまされちゃう伯爵が哀れです。非処女の血を吸ってしまうと、顔が緑色になって(…ほんとに緑のライトを当ててます!)、拒絶反応が起きてしまいます。浴室に直行です。以前、「Tenebre」「シャドー」1982)でダリア・ニコロディに 〈絶叫大賞〉 をあげちゃいましたが、これは 〈嗚咽大賞〉 をあげたいですね。だってキアー、迫真のゲロ演技、ほんとに苦しそう!

 作品の趣旨としては、「女は魔物」ということをいいたかったんでしょうか…? いえいえ、たんに、ドラキュラをギャグにしたかっただけでしょう!

 ほかにも笑えるシーンがたくさんありまして、イタリアに到着した伯爵様、飢えのためにベッドでゴロゴロ身もだえしているところを、アントンが「我慢しなさい!」と一喝するところなんか、じつは隠れS? と、思ってしまいます。それから、4人姉妹を紹介された伯爵様、「ふつくしい! なんて純粋なんだ…!」と、やはり我慢できなくなってワナワナしてしまうのですが、本作でいちばんピュアでうつくしいのは、キアー本人だったりしますあと、ポランスキー監督もちょい役で出演していますね。

 ドラキュラファンの方も、そうじゃないという方も、とりあえずこのトホホ作品は観ていただきたいです。 絶対笑えますから~!!


 







キアーがあまりにもきれいだったので、
いつもより画像を多めに。
貴族的な横顔がすてきですね~






こんなキアーも。
ちょっぴりワイルドな雰囲気に
してみました…







ふ、ふつくしい!!
もはや、生きる芸術作品。









そして現在っ!!
(時の経過って残酷なのね… のね)








…はれ?
なんかおかしいよ?
(顔が緑だよ?)








ゲロゲロ~ッ!!
やっぱりだまされちゃった!






だって、毎晩こんなです
もーん
(…いちばんおいしいのは、
下男のマリオだったりします!






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(いちおう)プロフィールです
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ななみといいます
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 独断と偏見で、ホラー関係(広い意味でのホラーですので、SFやファンタジーなんかもやってます)のレビューを書いてます。コメント大歓迎です。新情報や、こんなのもあるよ!って情報などなど、寄せてくれるとありがたいです。

〈好きかも♪〉
 おにぎり、猫たん、ジャック・ホワイト、ブクオフ、固いパン、高いところ、広いところ、すっげー大きな建造物、ダムとか工場とか、毛玉とり、いい匂い…

〈苦手かも…〉
 かます、説明書、道案内、カマドウマ、狭いところ、壁がすんごい目の前とか、渋滞、数字の暗記、人ごみを横切る、魚の三枚おろし…
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